練習がすべて (その2)

自立・自律を応援する声がけを

④シュート至上。子供たちが最もこだわるのはシュートを決めることであり、バスケットボールという競技において最もエキサイティングな部分です。ジュニア期の指導者が選手たちに渡してあげられる最高のプレゼントは高確率のシュートスキルに他なりません。

私は基本的に、フットワークを含む身体運用もドリブルワークもパッシングも、シュートスキルにつながるようにドリルを構成しますし、可能な限りシュートを打って終わるようにしています。

さて、実はジュニア期においては、指導者が最初から正解を与えて言うことを聞かせ、ポイントを絞って反復練習させた方が早く強化できる場合があります。例えば、ボールを持てばひたすらドライブで突っ込んでシュート、守ってはボールを強引に奪いに行くゾーンプレスもどき...

しかしこれでは子供達がポテンシャルを最大限に発揮して、自分がなり得る最高の選手になることは難しいでしょう。小学生であってもバスケットボールの奥深さを知ることはできるし、攻守の無限のバリエーションから刺激を受けます。ここでもやはり、子供を過小評価しないことです。


⑤「バスケはバスケをプレーさせることでしか上手くならない」サッカーの戦術的ピリオダイゼーションの根本原則をもじったものです。要はバスケットボールという競技は5人でやるものであり、選手はゲームの全体像を理解する必要があるということです。

シュートやドリブルの練習が1対0や1対1の孤立したエクササイズに陥らないよう、ディフェンスの圧力やチームメイトの存在を意識させる等のゲームライクな内容にしつつ、シュート自体も試合で有効なバリエーションをたくさん経験させてあげたいと思っています。

さあ5対5をやろうと言うとほとんどの子は「よっしゃあ!」ってなります。私が1対1にこだわって指導していても、子供たちは無意識に5対5の中で1対1を成功させつつ、10人が介在する中での駆け引きに勝利することの面白さと必要性に気づいているのだと思います。

なお、ゲームの全体像を理解するのは簡単ではありません。試合の色々な局面や構成要素をゲームモデルの概念で統一的に解釈するのがサッカー界の進んでいる方向ですが、横浜ボブキャッツではビジョンとスペーシングを軸にしたゲームモデルを通じて競技理解を進めていくことになるでしょう。

そして、1対1に比べて5対5は非常にカオスなものです。だからこそ子供たちが共通認識を持ちつつも個々の判断で最適なプレーを選びとっていくのに任せるしかありません。主体的にプレーできる自立・自律した選手を育てて、選択したプレーが指導者の予想や期待と違っていたら、選手が指導者を超えたのだと喜べばいいんだと思います。


【まとめ1】

さて、上の①〜⑤の視点から子供たちの5対5を眺めるとどうなるでしょう?試合中の私の典型的な声がけがヒントになればと思います。

「そう!」→「そう!」→「そう!」= オフェンスのボール運びやボール回し、あるいはディフェンスのエアボーンの連動などに際して、子供の判断に賛意を示す声がけです。私は具体的なプレーを命じることは基本的にしません(走れ、行け、投げろetc.は×)。プレー上の約束事に沿っており、子供たち自身が状況を観て判断した結果なら基本的にOKと考えて受け入れます。

「次は?」→「その次は?」= スペーシング(どこにスペースがあるか/どこにスペースを創るか、誰がどのスペースを使って合わせるか)の判断を全員に対して促す声がけです。スペースがないところに突っ込んだり、お互いに近づきすぎたり、決め打ちで自分都合のパスをしたりでなければOKです。

「いいね!」「おぉっ!」「やるね!」= 練習通りの展開をつくり出しての得点は当然ほめますが、シュート成功の前段階のディフェンス・ボール運び・ドリブル/パス・オフボールの動きの方をよりほめてあげたいと思っています。また、予想外のプレーは最大限にほめてあげたい。大人の想像の枠を超えたサプライズにこそ(成功してもしなくても)大きな価値があると考えるからです。

私は約束事をベースに連携プレーをつくりますが(≒戦術のタスク化)、選択肢を残す声がけを心がけています。例えばオフェンスにおけるボール運び〜シュートの流れでは「シールから/表も裏も(スペースの利用)」「前を観て(ビジョン;パスしろ、自分でドリブル等の具体的な指示はしません)」「とめない(ボールプッシュないし縦パスや連動)」「合わせて(スペーシング)」「役割を考えて(セイフティ、リバウンダー)」といったリマインダーが多いです。

また、ディフェンスやトランジションにおいてはディシプリンをより求めているためでしょうか、例えば「三角形(フラットトライアングル・ポジション)」「好きにさせない(バンプ、ディナイ、スティール/ブロック)」「インライン(オーバープレー/オーバーカバーを避ける)」「ハーフラインまで(切り替え時にダッシュしつつの状況判断)」など、まさに守・破・離の「守」に関する声がけが中心になっています。


【まとめ2】

こうやって文章にしてみると、鷲野先生がいつも仰る「どんな強制力よりも共感が勝る」という言葉には全てが含まれていると今更ながら感じ入ってしまいます。

これらは15年間ミニバスのコーチをさせていただく中で、自分が一番変わった部分でもあります。同時に、40年前に中学生を指導した時にこれが出来ていればと非常に申し訳ない気持ちにもなります…指導者は学び続けるしかありません。

そしてあえて最後に残しましたが、結果は自ずからついてきます。上に書いたようなアプローチを通じて、私はダブルゴール・コーチングを強く意識しています。育成と勝利(強化)は両立するのだということを、私たちは横浜ボブキャッツの活動を通じて証明したいと思っています。


P.S. 参考リンクです:

ダブルゴール・コーチング  https://coachunited.jp/column/000665.html 
努力のあり方に関する論考  https://elistu.com/effort_lie/ 
戦略的ピリオダイゼーション  https://www.footballista.jp/feature/44479

以上