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エアボーンタイムとは Part 1:ディフェンスの原理として

目次 (1) エアボーンタイムとディフェンス
   (2) エアボーンタイムにおける10人の動き
   (3) エアボーンタイムはディフェンスが有利?
   (4) エアボーンタイムとオフェンス
   (5) 声がけとしての「エアボーン」の効用


(1) エアボーンタイム(airborne-time)は「ボールが空中を飛んでいる時間」のことです。

最初にこの言葉を聞いたのは2007年の栂池サマーキャンプ、原田茂先生が「ディフェンスはエアボーンで動かねばならない」と仰ったと記憶しています。

ボールマンからパスがレシーバーの手に渡る間に、5人のディフェンスは適切なポジションに移動せねばならないという基本コンセプトです。当たり前に聞こえますが練習や試合で徹底されていますか?

子供達に「エアボーン」と声がけするだけで、攻守ともに先読みして動く姿勢や動くタイミングの感覚が強まる印象が私にはあります。経験上ジュニア選手であっても大きな効果が得られています。具体的には以下のようになります:


①ディフェンスはエアボーンタイムの間に、パスが飛んだ方向と距離を確認しつつ、自分がマークするオフェンス(以下マイマン)の動き・意図を解釈しながら適切なポジション(=1・2・3線)を取ろうとして動くことになります。

そしてエアボーンタイムが終わった瞬間には、マイマンがボールマンになっているなら必要な間合いで1対1で守り、マイマンがオフボールマンであれば次のパスをディナイしつつボールマンへのカバーも準備できていなければなりません。


②ボールが動き続けるとこれらを頻繁に繰り返すことになり、大変になるのは容易に想像がつきます。加えて原田先生は「9+1+B+G」を意識してディフェンスをすることを要求されますから...

結局ボールと人が動き続けると守り切れません。ディナイやボールマンプレッシャーによってボールの動きを妨げ、バンプやコースチェックによって人の動きを妨げるのが必須と私が考える最大の理由です。エアボーンタイムはそのための準備時間でもあります。


③ちなみにドリブルがおこなわれている時は、ボールの移動スピードや方向が変わり得る点が、パスのエアボーンタイムとの最大の違いです。2線と3線のディフェンスはドリブラーの移動に合わせて「連続的に」きめ細かくポジションを調整します。

1線が抜かれる可能性の高低、ドリブラーのトラップの有無、オフボールマンの合わせの巧拙などによって、この場合のポジション調整の難易度は変わります。ドリブラーをディレクションすることで、このポジション調整がシンプルになる点は特に重要です。


④なお、今回のコメントは基本的にシェルディフェンスを想定しています。最近話題のパックラインディフェンスにおいては、ドライブを最優先で守るためにオープンスタンスで中を固めますのでウィングはディナイしません。

したがって、パックラインディフェンスではパスが容易に回りクローズアウトやローテーションが増えるので、エアボーンタイムにおける動きが更にシビアになります。激しいボールマンプレッシャーが必須となる理由です。

ボールマンプレッシャーを強めないパックラインは引いて中を固めたマンツーマンディフェンスに過ぎませんが、よりゾーン的な性格を持ちます。外を捨てる代わりにドライブを守りやすいこともありミニや中学で流行すると考えていましたが、現状はどうでしょうか?


(2) エアボーンタイムにおける10人の動きを理解する

パスが出された瞬間はシュートが放たれた瞬間と同じで、ボールに触っていない10人のプレーヤーが次に向けて一斉に動くタイミングと言えます。それがエアボーンタイムの特徴です。

例えば、シュートが放たれた瞬間であれば、オフェンスはセイフティ&リバウンド、ディフェンスはボックスアウトとリバウンド確保に向かいます。ではパスが出された瞬間であればどうなるのか?以下、役割別にまとめてみます:


①レシーバーが誰になるかはその時点では明らかで当然ボールを受けに動いていますから、レシーバーのディフェンスはパススティールを狙うかキャッチ後にインラインを守る準備をするかの二択でシンプルです。

この「インラインを守る準備」には、クローズアウトを完了して要求される間合いをとり終わっていること、キャッチ&ショットのフェイクに対して飛ばないこと(正しい間合いに居れば飛ぶ必要はない)、キャッチ直後の(フェイクなしの)ドライブで抜かれないことが含まれます。


②パサーにはパス後に7つの動きがあるとされますが、エアボーンタイムに限れば単純に4つです(リングに向かう、ボールに向かう、ボールから離れる、その場にステイする)。

ディフェンスはパス後に自動的にジャンプトゥザボール(JTTB)して、相手がボールやリングに近づくならバンプかチェイス、ステイかボールから離れるなら放置(間合いを広げつつ視界に入れておく)という二択で十分です。ただしJTTBをおこなう結果、バックカットの守り方には工夫が要ります(後述)。


③残る3人のオフェンスは「次かそれ以降のレシーバー」になろうとするのが基本です。エアボーンタイムに限れば、①のレシーバーからパスを受ける準備をするか、あるいはオフボールスクリーンを仕掛けるか。

ディフェンスは前者に対してはディナイ、後者に対してはスライドの一択ですが、①のレシーバーをカバーする意識も重要です。特にバックカットやダイブしてくるオフェンスへの裏パスを効果的に牽制するには、相当の競技理解・バスケIQが必要になります。


Part 2では、エアボーンタイムにおいてディフェンスが持つべき意図と、それに対するオフェンスの対抗策についてまとめます。

(続く)

【楽しい面白いは絶対なのか?】 12月第4週〜1月第2週のレッスンレポート +エアボーンタイム、コロナと特別ルール

2020年12月24日〜2021年1月17日、レッスン#46〜#51

年末イベント”横浜ドリーム2020”をはさんだ3週間分(第46回〜第51回)のレッスンのレビューです。当イベントに関してはブログに4回に分けてレポートを掲載しましたので是非ご笑覧ください!


(1) 楽しい面白いは絶対なのか?

①楽しいからこそ上達したいと自分から思うようになり、努力を努力とすら感じず夢中でプレーする中で上達する。育成期の指導の方向性のあるべき形として常に言われることです。

私がフォローしている東京のチームのブログに次のような文章がありました。ここでは部分的な引用となりますが、是非原文をご覧いただければと思います。指導者の志とは、育成とは、深く考えさせる論考がたくさん掲載されています。

「...スポーツに取り組む姿勢にマナー・モラル・スポーツマンシップが整っていないと、そのスポーツに取り組む目的がずれていってしまう危険性が大きくなってしまう...」( http://magic.tokyo.jp/2020/12/28/magic202101/ )


②競技スポーツの場合、楽しい→上手くなりたい→試合で活躍したい→勝ちたいという目標設定の進化(?)が正しい/望ましいとされることが多いです。一直線で分かりやすい正常進化だと思いますが、私はそこにマナー・モラル・スポーツマンシップをどう盛り込むかがより重要だと感じています。

これはまさに年明けにボブキャッツで起こったことで、子供たちもコーチ陣も心が大きく揺れ動きました。結論だけ記しますが、私自身は「子供たちが成長する⇦⇨変わる⇦⇨挑戦する」というテーマを追求したいと思っています。


(2) 最近のレッスンテーマ

①昨年終盤にトライアングルシリーズ(ドリブル、ディフェンスステップ、1対1)を導入して以来、攻守ともにコンタクトを嫌がらない空気ができてきました。

そうなるとスローインやパス回しの際にVカットやIカットは有効でなくなり、シールやLカット、それへのカウンターとしてのCカットが必要になります。ボブキャッツでは”SLCV”という言葉で優先順位をつけています。


②速攻なし、あるいはドリブルなしのスクリメージによって、ディフェンスからのコンタクトにオフェンスが対応する機会を増やしていますが、今度はパスの飛距離やタイミングに物足りなさを感じ、制限なしのスクリメージではトランジションの遅さも気になります。

私の経験上、遠投は特に女子は取り出して練習せねばできません。野球投げを知らない、カーブ回転がついてしまう、ループが出ない、ワンハンドショット的で弱いといった点の修正が必要になります。

子供たちは自分のパスが届く範囲しか見ません。遠投の練習と並行してビジョンは拡がりますが、パスを受ける選手が動くタイミングや方向・スピード・ステップなどが新たに課題となります。これらはまさにパススキルのディテールを成すものです。


③パスを受けるタイミングはディフェンスのポジショニングを決める「エアボーンタイム」が深く関係してきます。これは特に強力で合理的なチームディフェンスを築くには不可欠なコンセプトです。

エアボーンタイムを利用して、ディフェンスは全速力でポジションを調整し、ボールマンにプレッシャーをかけつつオフボールマンへのダイレクトパスを防ぐ態勢をつくろうとします。

オフェンスはそれに対して、ディフェンスのポジション調整を妨げる(例えばスクリーンの利用)ことで対抗できますが、私はディフェンスのポジション調整が完了した直後にオフェンスが動くことを求めています。この辺のことは別レポートで詳しく説明します。


(3) コロナ下の特別ルール

①非常事態宣言を受けてレッスンは20時までに終了する必要がありますし、レッスン内容に関してもコロナ対策を更に徹底することが求められています。

昨夏にも採用した試みの一つとして、スクリメージ時の特別ルールがあります。「全員がファウル4回で大接戦になっていると思ってプレーすること」これだけです。


②ディフェンスにおいてラフ(雑な)プレーやギャンブルをせず、足を使って正しいポジションを維持し続ける。ボール奪取のチャンスを待って、相手のミスを抜け目なく待つ。保持されているボールを獲るよりもリバウンドやルーズボールの確保に集中する。

これだけでディフェンスの質は顕著に高まり、全体的なプレッシャーもより高くなるように感じます。また、リバウンドやルーズボールに消極的な子たちが出てくることで、ボールへの執着の強い子たちはかえって活躍するようになります。

すごく単純ですが効果は想像する以上に大きく、おすすめします。ついでにファウル絡みのルールを詳しく勉強する機会にするのもいいでしょう。

以上

"横浜ドリーム2020" トレーニングマッチの収穫 Part 2: ベンチワークについて&総括

2020年12月29日、本郷小学校

(2) 試合を楽しむためのベンチワーク

実力差があろうが局面局面で成功体験を得ることはできますし、強い相手と戦うことを楽しむことができるメンタリティは私が特に大切にしているものです。子供たちにとって今は手が届かないステージであっても、きっと将来は手が届くステージになり得るからです。

その意味で今回の横浜チーム対弥富北中のゲームは、上手くいかなかろうが点差が開いていこうがチャレンジを続け、この貴重な経験を自分たちの成長につなげることを目標に指揮を執りました。以下は、当日のベンチワークにおいて私が意識して実践したポイントです。


① 試合前: まずみんなで共通認識を持つべきこととして、相手のプレースタイル、こちらのメンバー構成の特徴と役割分担、予想される試合展開(得点や失点のパターン)などをイメージしてもらいました。急造チームでは特に役割分担が重要になり、スローイン、ボール運び、プレーメイク、リバウンダーとセイフティなどは密に確認するようにしています。

また、トラップDEFが予想されたので、パスのレシーバーはDEFの影に入らないように動き続けてパサーと目が合うポジションを維持すること、ドライブ時はスペースクリアと後詰め(止められた際のレスキュー)を意識することの二つを念押ししました。前者は合わせのベースになるものでシンプルですが効果絶大です。


② 声がけ: 練習時のスクリメージと同じく対外試合においても、結果論で評価しないこととダメ出ししないことを自分自身に言い聞かせています。このレベルの相手だと「考えてプレーする」のは局面毎のタイムレースに負けるだけなので、私からの評価を気にせずに感じたままにパッとプレーしてもらいたいとも思っています。

また、原理原則に即した(私が期待する)プレーには「そう!」「いいよ!」と承認の声がけをすることで、正の強化(positive reinforcement)によるプレー定着が期待できます。負の強化は正解を与えはしませんから、即席チームでの試合では機能しないと考えています。良いプレーにはとにかく逐一「ナイス◯◯」と声をかけることで、トータルの得点ではなく一回一回のプレーに集中するように持っていこうとしました。


③ 選手交代: ミスをしたらベンチに下げられると選手に思わせてしまうと、上に書いたような自立・自律や有能感を目指した前向きな声がけは無意味になってしまいます。ベンチに下げる時間はなるべく短くして再投入しますが、先に交代でコートに入った選手とまた代えることはせず、それぞれをなるべく長くプレーさせるようにします。そのためには選手のローテーションのパターンを相当工夫せねばなりません。

なお、交代させた選手に対して私は「ダメだからベンチに下げたんじゃないよ。またすぐ出るから休みながら気持ちの準備をしておきな。アドバイスしたいから水分をとってすぐ戻っておいで。」と言うようにしています。交代で入る選手には一つか二つだけに絞って必ずやってみて欲しいことを伝えます。こちらは経験の浅い中1+小6のチームでしたが、弥富北中に対して必死でくらいついてくれたことに感謝感激でした。


④ アドバイス: 今回の交代時・タイムアウト時の具体的なアドバイスの例を挙げておきます。
- ガード同士の連携では、相方にパスして任せっぱなしにせずパス後の動きを工夫すること(パス&ラン、アラウンド、P&R、ドライブへの後詰めなど)。
- チームディフェンスでは、カバーを意識して下がり過ぎるとパスが自在に回って守りきれなくなるだけなので、絶対に引かないこと。
- トランジションが鈍いので、OF→DEF・DEF→OFともにハーフラインまでは必ずダッシュして、間に合うなら走り続ける/遅れるなら次を考えて減速して構わないこと。

私は大学時代に中学生男女を3年ほど指導し、現在もミニバス有志でつくった広域リーグは一般ルールで試合をおこなっています。ミニバスルールと中学以降のルールが今後一本化されることもあり、上述したような選手交代やタイムアウトのノウハウを更に蓄積し共有していきたいと思っています。


(3) 総括: ”横浜ドリーム2020”を無事に終えることができたのは、コロナ禍の懸念が増す中で参加された選手達や指導者・チーム関係者の皆さん、子供達を送り出してくださった保護者の方々のお陰ということに尽きています。改めてお礼申し上げます。

鷲野鋭久先生のクリニックはナショナル育成キャンプ等での実際の指導に沿った内容でもあり、全国レベルのファンダメンタルズ(基礎・基本)の質の高さやスキルの幅広さを知ることが出来たと思います。ボブキャッツHPにも先日レポートを掲載しました( https://bobcats-yokohama.com/blog/118334.html )。

弥富北中女子チームとのゲームでは、日本一を目指す選手達の気持ちの強さと技の速さ・正確さ・賢さを感じてもらえたことでしょう。6年生には中学ルールも体験してもらい、中学生には手加減なしの真剣勝負を味わってもらいました。


”横浜ドリーム2020”はクリニックも交流ゲームも日本一の内容、日本一のレベルであったと自負しています。選手や指導者の皆さんはぜひ、今回の経験を今後に活かしていってください。鷲野先生のクリニック第二弾もお楽しみに!

ボブキャッツでも鷲野先生のアプローチを多面的に採用しておりますので、いつでも見学等いらしてください。選手の皆さんは無料体験や3月までの入会キャンペーンも利用できますので、今回の復習だけでなく「続編」も体験して欲しいです。


ホームページにある通り、私達はミニバスおよび中学部活の選手達、指導者、保護者の方々と広く手を携えて、笑顔でバスケットボールを楽しみ「目指す最高の自分」になろうと頑張る子供達のお手伝いをしたいと考えています。

選手が所属するミニバスチームや部活チームで活躍できるように、個の力=個人スキル&個人戦術を育んで参ります。また、所属チームの活動に影響しない範囲で、今回の交流戦のように対外試合にもチャレンジしていきます。今後とも横浜ボブキャッツをどうぞよろしくお願いいたします!

以上