ハーフラインルール - 早く速いトランジションを目指して

ハーフラインルールはボブキャッツと自チームで導入している、トランジションオフェンスならびにトランジションディフェンスの指導アプローチです。


(1) 具体的なルールと実戦上の要請は次のようなものです:

A. ディフェンス時にマイボールになったら(失点時を含む)、ハーフラインまでダッシュしつつ攻める
B. オフェンス時に相手ボールになったら(得点時を含む)、ハーフラインまでダッシュしつつ守る
C. ハーフライン以降もダッシュを続けるかどうかは、個々のプレーヤーの状況判断にまかせる
D. 役割分担を意識できるプレーヤーはハーフラインに向かわずに他のムーブをおこなっても良い


◯ A・Bは当然と言えば当然なプレーですが、低学年や初心者が出遅れてチームプレーにほころびを生じさせることが多い局面であり、ルール化する意味は小さくありません。スクリメージ中にボールポゼッションが代わる度に「ハーフライン」と声がけすることで、迷わず切り替えることが出来るようにもなります。

なお、このような習慣が必要かつ有効となるのは、タッチダウンパス(リードパス)によるワンマン速攻ができることが前提となります。タッチダウンパスが失敗したとしても相手エンドからのスローインで再開しますから、逆速攻されるリスクが無いお得なプレーです(若水中・元HC杉浦裕司先生)。


◯ Cは機械的なトランジションバスケに陥らないためにも必須のルールです。例えば、速攻に走ってもパスが間に合いそうにないならば走り続ける意味はなく、フラッシュに転じたりトレールに動いたりと目的を変更する必要があります。

あるいは、相手の速攻時にハリーバックしてディフェンスに戻ってもリバウンドやパスカットに間に合わないのであれば、失点後のスローインや仲間のリバウンドによる反転速攻の準備をする方が理に適っています。


◯ Dも実戦上は当然のことで、例えばオフェンスに転じた際にオフボールマンが4人とも前に走っては、攻めを組み立てられません。ただし高い位置でスローインのパスやリバウンド後のアウトレットパスを受けるのは有利なので、ガードでも一旦はハーフラインダッシュを試みるというのは効果的な選択です。

逆に、ディフェンスに転じた際に5人全員がハーフラインまでハリーバックするのは悪くない習慣です。しかし、オールコートディフェンスを展開したいとかボールマンには早目にプレッシャーをかけたいといった場合には、ハリーバックせずに残る意識を持たねばなりません。


(2) このアプローチの利点は以下の通りです:

- レベルに応じたトランジション意識を持てるようになるので、経験値が積み上がるのを待たずにチーム全体の攻守の切り替えが早く・速くなる。
- 自動化(戦術のタスク化)された動きから始めて、個々の状況判断によって変更OKとすることで、ルールが進化していくと同時にバスケIQを養成できる。

- 根性バスケ的な強制された走りや無駄な走りをなくすことで、体力を浪費したり気力を損なったりを防ぐことができる。

低学年や初心者でも速攻に参加したり、ディフェンスに遅れず戻ることで、最初からチームに貢献できます。経験者であれば「どこまで走るか・走らず戻るか・コースを変えるか」といった判断を主体的におこなうことで、ゲームを自分のものとして捉えられるようになります(オーナーシップ)。


(3) 機動的なトランジションバスケットボールを目指して

攻防のスピードで相手と対等かそれ以上でないと常に後手にまわることになりますし、普通に1対1で守れないと破れを繕うことに終始するディフェンスに陥ってしまいます。遅いチームや守りの緩いチームはそもそも論外ということです。

逆に、速いチームは遅くもプレーできるし、脚を使ってプレッシャーをかけて守れるチームはノーマルディフェンスも普通にできますから、そういう方向でチーム創りをするのが合理的だと考えています。

上述したように、走るバスケやトランジション主導のバスケは導入の仕方を間違えると、ひたすら走りまくる根性バスケやプレッシャーディフェンスからの速攻オンリーのガチャガチャした落ち着きのないバスケットボールに逆戻りしてしまいます。

例えばハーフラインまでのダッシュを常に義務付けたりしては本末転倒なことになります。ハーフラインルールが硬直的にならないようなプレーヤーファーストの配慮が必要な部分だと言えます。


(4)最近のレッスン内容との関連性について

①ハーフラインルールはエアボーンタイム(前回のブログ)と同じく、基本的にトランジション&スピード志向のコンセプトです。オフェンスは前への展開力、ディフェンスはハリーバックによる安定した守りが目的になります。

この種のプレースピードは、走るスピード&コース、ボールスピード、タイミング、予測力&判断力といった複数の要素が合わさって決定されるもので、走る部分だけを鍛えても実現できません (この点については別のブログで触れる予定です)。

ハーフラインまではダッシュしよう、味方がボールをキャッチした瞬間にすぐ動こうと思うことで、これら全ての要素を磨かれると考えています。当然ながらパスやドリブル自体のスピードアップや無駄な動作の排除も必要です。


②ゲームを通じて終始100%近いダッシュで往復し続けることは、女子は大学レベルでタイムシェアを採用してすら困難です。成長期後半の中学女子であっても、終始ダッシュで往復するなら70%〜80%がせいぜいです。したがって小中学生の場合は発達過程に合ったやり方を模索していく必要があります。

小学生は持久力が向上する手前の時期なのですぐにエネルギー切れになるし、女子は特に先々を見越して力をセーブする特性があります。それゆえ「常にではなく場面を限定して」ダッシュを求めるのが実際的です。

終始80%程度のスピードでコートを往復する「走るチーム」に対して、「必要かつ可能な局面で100%のダッシュ」をして優位をつくることが鍵になります。「必要かつ可能な局面」を見極める判断力も磨く必要があります。これらはまさにハーフラインルールが直接寄与できる部分だと考えています。


③効率よくダッシュの要否を判断しよう、無理無駄ならダッシュをやめていいよと言われても、レベルが上がるとエンドからエンドまでダッシュする以外の選択肢は少なくなってきます。運動量の増加は避けて通れません。

ハーフラインダッシュで終わらず3Pライン位まで走り続ける場面がしばしばあり、運動量が相当増していることに子供たちも気づくはずです。ハーフラインルールは選手が自分の判断で自発的に(納得して?)走ろうという意思を持てるようになることを期待するものです。


④結論: オフェンス面ではハーフラインルールとエアボーンアタックとを組み合わせることで、プレースピードを最大限にもっていきたいです。トランジション時に一旦リングに向かって攻めることで、ワンパス速攻、戻ってのつなぎ、トレールやアラウンド、ピストルなどへの展開も容易になります。

ディフェンス面では、ハーフラインルールを徹底することで相手の速攻からの失点を最小限にしたいです。更にエアボーンディフェンスを強調することで、パスが空中にある間にポジション移動を終わらせ、イージーショットの機会をつぶすことを期待しています。


以上