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【なりたい自分とあるべき姿】 12月第1週〜第3週のレッスンレポート Part 2 「チーム指導編」 + 指導法と選手のマインドについて

2020年12月3日〜12月19日、レッスン#40〜#45

今回は第40回〜第45回のレッスンレポートのPart 2となりますが、内容は具体的な活動内容やスキル・戦術に関する考え方ではなく、バスケットボールと人生というとても大きなテーマに関するお話です。


インカレ4連覇を果たした東京医療保健大学の恩塚亨HCの「バスケット界ひいては日本社会において文化を作っていくモデルチームに」とのコメントが話題になっています。解釈や感想なんて無粋でしかない素晴らしい言葉ですので、以下に原文をそのまま記します(※):

「ダメだから練習するとかいう考えをなくして、日本の子どもたちや大人も含めて、こんな自分になりたいということだけを見て生きて行くような文化を発信していくことを今後は目指したいです。今までの実績などは関係なく、私がこうなりたいということを素直に表現する勇気と、それをみんなが認めて背中を押せるような空気というか文化を作っていくモデルチームになりたいと思っています。」

「バスケットボールを通して自分の人生をどう作っていきたいのか、選手たちがそのイメージを明確に持てて、キラキラした未来に向かってチャレンジしていける、そういうバスケット界になれたらいいと。それが実現すれば、バスケット界が日本社会に対して良い影響を与えることができるとも思います。」

※ インカレ後のインタビュー記事はバスケットボールスピリッツさん( https://bbspirits.com/school/c20121301/ )、その伏線になったコーチング哲学に関するレポートはジャパンライム/バスケットボールジャンプさん( https://www.basketballjump.jp/202011special-onzuka-1/ )がそれぞれ出典となります。まさしく熟読に値する素晴らしい内容と思います。


(1) スーパーヒーローになるために

上に引用した文章だけを読むとやや抽象的ですが、インタビューの前半では黄金世代が卒業して優勝できるとは思っていなかった選手たちに自信をつけさせ成長させた秘訣は何だったのかに関して、恩塚さんは以下のように仰っています。

「私たちはバスケットを通じて人生をより良くしていく、自身を成長させることを共通目標に置いています。そのために現在取り組んでいるのが、『スーパーヒーローになる』というマインドを各人が持つことです。」

「なりたい自分(=スーパーヒーロー)になるため、自身の成長につなげるための努力を惜しまない気持ちでコートに立つ。そうすれば『やらなきゃいけない』から『やってやるぞ』という方向に変わる。つまり前向きになれる。こうしたマインドでプレーすることで、積極的になれるし、どこまでもやろうという気持ちになれる。この考え方が選手たちに浸透することで、プレーの質が変わってきて、私自身とてもうれしく思っています。」


こういう言葉は選手たちの心にダイレクトに響きます。さっそく真似させていただいて、レッスンの際に「自分がどう活躍したいのか、どんな選手になりたいのかをイメージしながら練習してみようよ!」と声がけしましたが、それだけでコート内の空気は変わり笑顔がすごく増えましたから。

指導者は選手の体格・能力やチーム事情にもとづいてポジションや役割を与えてしまいがちです。悪い言い方をすれば、指導者にとって都合の良い選手・チームに仕立てようとしてしまう。(ポジションレスで全て横並び、チーム事情は無視というのが理想とも思えませんが...)

いつもコートで観ていて個々の選手の特徴だけでなく、どんなプレーが好きなのか・どんな選手を目指しているかは解るはずなのに無視してしまうのか?各人に居場所があり貢献方法が見つかるチーム創りとは?そんなことを深く考えさせられました。


スクリメージでメンバー分けを決めた後に、各自が得意なプレーを目指したらどんなフィニッシュになる可能性が高いか、どんな選択肢が生じるかを予想させてみました。ミスや失点を悔いたり責めたりする前に、そうなる理由を考える機会にもなると考えました。

体格差や実力差を受け入れた上で、ゲームの中でやれることやりたいことを子供たちと一緒に考えていけたら面白いと思っています。最終的には個々の選手が好きな・得意なプレーをお互いに演出してあげられる、そんなレベルまで相互理解を深めたいです。


ところで、実は上に書いた声がけの前にもう一つのメッセージを子供たちに伝えてありました。それはどういう言葉だったでしょうか? (続く)


(2) 従来の指導について

私からのもう一言は「コーチから正解を教わってそれをひたすらやるだけじゃ楽しくないだろ?自分が一番好きなプレーをどんどんやって、それを正解にしてしまえばいいんだよ!」でした 。

これもまた受け売りみたいなもので、恩塚さんは「選手たちは教えられた通りにプレーすれば求める結果が出るとはわかっている。(その場合)やらなきゃいけないしやれなかった時に言い訳できないから、ロジックが明確であればあるほど不安になってしまうのではないか?」と仰っています。

従来は「理解させる、納得させる、選手たちにとってはやらなければいけない」指導法で、選手が上手くなるチームが強くなるためにどんなコーチングをするか、どのような練習や戦術が必要かを主に考えていたと。また、一つ一つのプレーに対してコートサイドから事細かく指示を出していたそうです。


結局、コーチが正しい教えを選手たちに授けそれを選手たちが必死に実行していくよりも、「こうなりたいという選手の内側から沸いてくる思い」を大切にして、「どこまででもやろうというマインドで試合に臨む」ように導くことが、秀でた選手・強いチームを創っていくのだなと。

選手たちが有能感を持てること、自立・自律した個として自己を確立できること、それによって自信を持って自ら考えてプレーできるように育てていくことに尽きているのだと、私は4年前にようやく気づかされました。どういう経緯でこの最重要な気づきに至ったのかの長い長いストーリー(?)は次の機会に。

今の私は、スクリメージにおいて子供たちが最重要・最小限の約束事(ロジック、セオリー、戦法/戦術)に沿っている限りは何でもOKです。個々の状況判断に基づいたプレー選択は基本的に受け入れて、結果論で評価することはしません。

チームにとって嬉しくないプレーには私なりの反対理由を伝えますが、他の選択肢もあったことを示すに留めて、特定の/具体的なプレーを要求しないようにしています。この辺のことは過去のブログ(https://bobcats-yokohama.com/blog/92033.htmlhttps://bobcats-yokohama.com/blog/92063.html)を是非ご覧いただければと。


(3) 日本のバスケットボールの課題について

この点について恩塚さんは、最近テクニックに優れた選手が増えてきているが、5対5の中でそれらを発揮できるようになることが一つの課題だと仰っています。バスケットボールとはどんな競技かという原点を突き詰めて向き合っていけば、コーチも選手もレベルアップできると。

恩塚さん自身がこれまでスキルや戦術にフォーカスしすぎる傾向があったと自戒されています。スキルコーチングがここ数年で表舞台に躍り出てきて、私もスクールではスキルを軸にレッスンを組み立ててきました。

この半年のレッスンレポートを振り返ると、スキルを紹介して教え込むアプローチからどんどん逸脱(?)して、「抜き技」の紹介⇨「する」のではなく「なる」ように導く⇨「矛と盾」でオフェンスだけでなくディフェンスも磨く⇨答えはゲームの中にある、という風にテーマが変わってきたことが判ります。

恩塚さんの今回の言葉を何度も読み返して、子供たちの自立・自律への私自身のこだわりやレッスンの方向性を応援してもらえたようにも感じました。子供たちの幸せなスポーツ経験に最も重きを置くことでは決してブレませんが、必要な変化はこれからも柔軟に受け入れていこうと思っています。


これが今年ラストのコメントになります。いつもレッスンにとことん付き合ってくれる子供たちと開校以来ずっと応援してくださった皆さんに心から感謝いたします。

Merry Christmas !

2020/12/25

【コンタクト意識、SLCVって何?】 12月第1週〜第3週のレッスンレポート Part 1 「コンタクト編」 + スローインとボール運びの原理原則など

2020年12月3日〜12月19日、レッスン#40〜#45

第40回〜第45回のレッスンレポートです。休講が4回あった上に体験会を含む変則的なパターンとなったので、3週間分をまとめた内容になります。表題の付け方を変わったのにお気づきでしょうか?過去のレッスンレポートも順次変えていきます。

今月のレッスンは、内容的にはオンボールならびにオフボールでの攻守のコンタクトにフォーカスしていますが(Part 1)、指導における声がけや説明あるいは練習フォーマットにも大きな変化がありました(Part 2)。


(1) コンタクトの重要性の再発見(?)

コンタクトの重要性・有効性を認識したのは数年前に遡りますが、国際ゲーム等におけるフィニッシュやインサイドのディフェンスプレッシャーといった高尚な(?)理由ではなく、スローインに苦労する自チームの姿を目にしたのがきっかけでした。

ミニバスや中学では強豪チームの多くがオールコートディフェンスで早い機会にボールを奪おうとしてきます。実際ボールが獲れてしまうので採用する戦法なわけですが、選手も指導者もなぜそうなるのか、どう対処するのかを一度しっかりかんがえてみるべきでしょう。

特にスローインでパスを受けようとじたばたして5秒経ってしまうケースや、ボール運びが整理されておらず苦労するケース... この段階でエネルギーを使わせられると、フロントコートに入ってからのオフェンスにも大きな影響が出てしまいます。


(2) オフボールマン: コンタクトからスタートする

スローインであれボール運びであれ、パスを受ける際に自分からディフェンスに対してコンタクトを仕掛けるのが最も効果的です。ディフェンスが押されて下がればオフェンスは突き放す方向に容易に離れることができますし、ディフェンスが踏ん張れば押し合いになりサイドシールした状況と同じになります。

子供たちが最初に習うであろうVカットは、経験値の高いディフェンスには読まれてしまい機能しません。また、コンタクトを避けるとVカットはIカットになってしまい、内線の利があるディフェンスを振り切ることが難しくなります。

より上手なディフェンスになると、オフェンスからのコンタクトをスッとよけてくるので厄介です。シンプルに腕を広げてボールに向かうか、LカットやCカットでディフェンスがパススティールに来れない状況をつくる必要が出てきます。

私はゲームにおいてはガードに対して「シールから!」とか「表も裏もあるよ!」とアドバイスします。下級生には「コンタクトしてから鬼ごっこすれば必ずボールをもらえるよ!」です。練習では”SLCV”と称して”Seal→L Cut→C Cut→V Cut”の順に優先度を設定しています。

なお、経験値が中途半端だと「Vカットあるある」にも注意が必要です。これはVカットすればオフェンスは簡単にボールをもらえると根拠なく楽観し、ディフェンスはスティールは無理と安易に諦めてしまう現象で、そこそこ高いレベルでも見られるものです。


(3) ボールマン: ボール運び・抜き際・フィニッシュのコンタクトスキル

結局スローイン時のコート内は4対5ですから、オフェンスが不利である点を甘くみてはいけません。またボール運びは人数をかけるほどミスの機会が増えます。トップレベルではほとんどのチームが、ガードにスローインのレシーバー役とボールハンドラー役を任せるのはそれが理由です。

ジュニア期にはポジションレスが尊ばれますので、ボール運びを特定の選手に任せることには抵抗があるかも知れません。その点フィギュアエイトでは5人全員がパサー、レシーバー、ボールハンドラー、フィニッシャーなど多くの役割を担うので、ジュニア期に教える意義は大きいと考えます。

さてドリブルでのボール運びを担う場合を含め、ボールマンとしてのコンタクトスキルはSLCVとは異なる原理によります。すなわち「ボール移動やボールプロテクション、あるいはドリブルやシュートのコントロールを行いつつのコンタクト」をおこなうための手法を体系化することになります。

これらは昨今のスキルコーチングの普及で急速に整備されつつあると思われる部分です。来年度の競技規則でオフェンスならびにディフェンスのシリンダーの概念が明確化されることとあいまり、試合の中でどう表現されていくのかを注意深く見守りたいです。

(Part 2に続く)

2020/12/21

【パスの奥深さ】 11月第3週&第4週のレッスンレポート Part 2 「チームスキル編」 + M2M推進、リーダーシップなど

2020年11月19日〜29日、レッスン#34〜#39

続いてチームスキル編です。

(1) 個人スキル > チームスキル

私は個人スキルの弱さをチームスキルで補うことは潔しとしません。個人スキルを充実させてなお苦戦するようなレベルの試合になってから、チームスキルを活用して個人スキルを活かせるようにしたいと考えているからです。

そういう志向性を持つようになったのは、2015年のJBAによるU12ならびにU15におけるマンツーマン(M2M)推進がきっかけでした。JBAの意図としてそもそも1対1を楽しむ、個人のスキルアップを図るということでしたが、M2M推進でアイソレーションやエース勝負が増えることも予想されたからでした。

オフェンスはスクリーンプレーが増える、ディフェンスはカバ&ローテーションやクローズアウトが整備されるとも予想していましたが、前者はピック&ロール(オンボールスクリーン)がある程度増えるに留まり、後者は3線のディフェンスをミドルラインに縦に並べる変則的な(?)ディフェンスが相当増えただけでした。

ボブキャッツではフィギュアエイトを状況判断の向上のために利用していますが、フィギュアエイトそのものというよりもそこで必要になるチームスキル、例えばタッチダウンパス or DHO、パスミート or フレア、インフロントカット or バックカット、フラッシュ&バックドア or ポストプレーなどを理解したり、これらのチームスキルを構成する個人スキルを磨いたりをより重視しています。


(2) パッシング: シ・ド・パの中で最も難しい?

パスはボディハンドリングとボールハンドリングの延長上にあるスキルとしての側面がある上に、オフェンスとディフェンスのポジショニングとスペーシング(ポジションとスペースではない進行形!)の把握が必須です。

具体的には、ゲームの中のパスは、パサーとそのDEF、レシーバーとそのDEF、カバーポジションに居る/入り得る3人目のDEFなど、5人以上の状況を把握した上で、レシーバーにボールを到達させられるコースに適正なタイミングで投げることになります。書いているだけでハードルの高さが実感される難しい技術なんです。

パスとドリブル/ドライブとの使い分け、オフボールマンの動き方、フラッシュ&バックドアやダイブ&リフトといったタスク化された戦術などとの関連性も強く、予想した通りではありますがなかなか指導が難しいです。

センスの有無に逃げたり運動能力に頼ったりはしたくないので、パスを投げて良いケースとダメなケースを子供たちと一緒に検討しながら、パサーとレシーバーの連携を学んでいるところです。

まあ、上述したように個人スキルの充実が先なので、今はパスに関しても個人スキル的な側面を磨こうとしています。パスをより速く・早く・遠くへ・意図する通りにコントロールして投げるにはどうすれば良いのか?ドリブルからのパスはどうやって出すのが効果的か?自分をマークするディフェンスをかわす方法は(ボールプロテクション、プレッシャーリリース)?

学ぶべきことは山ほどありますが、それだけにとても楽しそうに思えます!


(3) スクリメージ

前回のレポートで「答えはゲームの中にある」(https://bobcats-yokohama.com/blog/111297.html)とコメントした通り、最近はスクリメージを通じて課題や強みを見つけたり、スクリメージの中で有効に使えるスキルを目指したりと、スクリメージがある意味コーチングのための最重要なツールの一つになっている感があります。

また、スクリメージ(試合形式)は4対4がスタンダードになりつつあり、スペーシングやカッティングを整理していく必要が出てきました。同時に、スクリメージの質を下げないためにオフェンスは安易なターンオーバーを無くし、ディフェンスは直線的にドライブされたり簡単に裏を取られないよう、個人スキルを先に整えておきたいと考えています。

更に、フルコートスクリメージになると「トランジション」絡みの状況判断とプレー選択が必要になります。オフェンスの速攻やセカンダリーブレイクはフィギュアエイトの中でカバーする一方で、ディフェンスのバックアップ(ハリーバック)やその前段階の(オフェンス時の)セイフティ&リバウンダーの意識づけなどは最近学び始めたところです。


(4) リーダーシップ

メンバーが増えてきたことで練習時のお手本役や先生役が欲しいのと、スクリメージが「バスケットボール」として上手く機能するためにも、リーダーシップを強調する機会が増えてきました。

学年も経験年数も関係なく、リーダーシップを執れる選手のキャラクターや執るべき場面をコーチとしてより深く理解して、たくさんの子供たちの中にリーダーの素質を育ててあげたいと考えています。

以上