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ゼロステップをスムースに導入する

トラべとは言わせない!

2018年度から導入されたゼロステップ・ルールですが、まずは従来のステップからと考えていませんか?

私は初心者・初級者への指導に際してもゼロステップを意識した方がメリットが大きいと考えています。


そもそも本場アメリカのプレーやルール解釈に寄せるための変更なのですから、そんなに違和感のあるスキルが導入されるわけではありません。

何が便利になるのかな?くらいの気持ちで臨んで、子供達のために活用すれば良いのだと思います。

実際、ゼロステップ・ルールのおかげでトラベリングを恐れずに使いやすくなったスキルや難易度が下がったスキルがいくつもありますし、ランニングゲームのスピードアップを可能にする面もあるからです。


今回はその辺をまとめてみましたが、(1)日本の現状、(2)ルール変更の本質、(3)指導各論の順番で書いていきます。

要はルールの変更点を正しく理解して、子供でも容易に実践できるスキルを構成してそれを教えましょうということです。

結論だけ、スキルの形だけを知りたい場合は(3)のB.に飛んじゃってください。


(1) ゼロステップと言えば、日本独特とも言えるボールミート時の粘っこい(?)ステップが思い起こされますよね?

日本代表が国際ゲームでトラベリングを吹かれる(特に女子)のは昔からですが、主な対象はオープンステップの突き出しでした。しかし、このオープン突き出しに関しては、国内ゲームでは選手、指導者ともにかなり無頓着なように見えます。

で、例の間延びしたミート(この投稿ではレイトミート/late meetと便宜上呼びます)ですが、何であんなことをするのかな?という謎スキルですし、ゼロステップ・ルールがこれにお墨付きを与えたわけではない点は注意すべきです。

特に高校女子は妙な工夫(?)が多い印象で、ミート時のゼロ歩目でビョイーンと跳んじゃうとか。男子は床スレスレの足さばきで軸足を切り替える感じでしょうか。どちらにしてもそれで優位に立っているとは思えません。

国内ゲームはディフェンスのディナイが大甘だからレイトミートが出来てしまうのだと私は考えています。実際、海外ゲームではミート以前にすごく苦労して、ディフェンスと競り合ってのキャッチの際に軸足がずれ、そこからの突き出し時にトラベリングを吹かれる印象です。


(2) 新ルールは実質的にNBA系統の「ギャザー/ギャザリング」の概念をFIBAも取り入れたものだと考えられます。

ギャザリングは実質的に、ボールを手に収める過程におけるステップは数えないということです。それゆえ、ボールキャッチ時のステップは床スレスレに移動しつつおこなうのが基本になり、小柄な選手は特に敏捷性を活かしやすくなったと思われます。

逆に、ジャンプ(空中での)キャッチは、トラベリングにならないという従来のメリットが固有のものではなくなったと考えられますし、当然ゼロステップ・ルールの適用外になります。

なお、旧ルールでOKだったプレーは新ルールの元でもOKである点は注意が必要です。唯一の例外は、ゼロ歩目と一歩目が同じ足だとトラベリングになるという規定です。ギャロップステップ等に大きな影響があります。この辺のことは次項でくわしく触れます。


(3) ゼロステップを受けての指導ノウハウですが、A. ボールキャッチや突き出し時の動作やスキル/アピール、B. フィニッシュ等のリズムや身体感覚/リズムやステップ、の2つに分けて考えてみたいと思います。

A. ゼロステップが適用されるのは「動きながら足がフロアについた状態でボールをコントロールした場合」であるというルールの文言を正しく解釈する必要があります。

①パスをランニングキャッチする場合

走りながら最初の足(0歩目)が床に着床するのと同時に片手にボールを収め始め、次の足(1歩目=軸足)が着床するのに向けて両手で保持するようにします。ここからのランニングショットに関してはBの①をご参照ください。

②ドリブルを終えてのキャッチの場合

第1のストップ足(ゼロ歩目)の着床に向けて片手にボールを収め終えて、次の足(1歩目)が着床するのに向けて両手で(①と比べて明確に強く)バチンと保持します。ここからのランニングショットに関してはBの③をご参照ください。

このパチンという保持はセキュア動作と呼ばれますが、審判にここで保持したとアピールするのと、しっかり保持することでボールキャッチ後の操作(パスないしシュート)の確実性とキレが格段に上がります。

③連続した動きの中でドリブルに移行する場合

0歩目でキャッチしたボールを2歩目のステップを踏む前に離せば良いとルール変更がなされ、ハードルが大きく下がりました。(従来は静止状態からと同じで、軸足が床を離れる前にボールを離す必要がありました)

速攻の最中のキャッチからのドリブルの際にトラベリングを犯すリスクは大きく低下しますが、その分はマヌーバリング・スピードが速くなるのだと思います。スピードアップした攻防のなかでターンオーバーが増えたりしないようにしたいです。

④ゼロステップが適用されないケース

連続した動きの中であっても、1歩目に軸足が決まった後に止まった状態ができた場合は、そこからドリブルをするなら従来ルール通り軸足が床を離れる前にボールを離さねばなりません。迷って止まってしまったら、突き出しは慎重におこなわねばです。

また、明らかに空中でボールをコントロールしたあと床に足をつけた場合は、そのついた足が1歩目(軸足)になります。「明らかに」という文言がなかなか曲者ですね。他にも、1歩目に「ほぼ同時に」両足で着床した場合はどちらの足でも軸足にできる、なんて文言もあります。


B. フィニッシュやストップに際しては、0歩→1歩でシュートしてしまうスキルを優先しています。クイックに打てることと、(申し訳ない言い方になりますが)審判のゼロステップ判定がバラついていると感じるからです。

①クイック・ランニングショット

パスを受けてそのままランニングショットに移行する際は、基本的に0歩→1歩でフィニッシュするように私は指導しています。キャッチした次の足で跳んでいるので体感的に相当速いです。

右サイドであれば、ミドル(左側)から来たパスを右足の着床と同時に右手でキャッチしてすぐに両手で保持し、次に着床する左足でジャンプしてしまいます。タイミングがずれて更に一歩進んで2歩目の右足でジャンプしてもリーガルです。

もちろん、0歩=左足→1歩=右足(踏み切り足)とか0歩=左足→1歩=右足→2歩=左足(踏み切り足)というパターンもOKで、後者はノーマルな左足ジャンプ&右手シュートになります。

(補足) 指導者仲間と意見交換していて、私は今回0歩→1歩と書いたものの、子供達の身体の内部感覚は1歩→2歩のままだろうと思い直しました。「ことさらにジャンプせずに、大股で踏み込んでボールをキャッチしているだけ」なんだろうなと。

例えば右サイドのランニングシュートであれば、以前は左足でジャンプしてボールに飛びついていたのに対し、左足を強く踏んで右足を大股気味に運ぶだけで済ませる。キャッチは「左足が床を離れる直前〜右足が床に着く直前」の間のタイミングならどこでもOKなので簡単です。

そうすると、この場合は左足が0歩目、右足が1歩目、次の左足(踏み切り足)が2歩目になります。つまり、0歩→1歩で跳んでいるのではなく、0歩→1歩→2歩で跳んでいる。ストップに関しても同じ感覚でしょう。

キャッチが遅れて右足が床に着くのと同時になった場合のみ、私が書いたように0歩→1歩で跳ぶことになるのだと。


②ドリブル・プルアップショット

このスキルは従来から、0歩→1歩のリズムで打つのだと理解しています。右手ドリブルからであれば、第1のストップ足(ゼロ歩目)である左足の着床と同時に右手→両手と素早くボールを保持し、右足の着床と同時に両足ジャンプショットに移行します。

ゼロステップを活かしたプルアップショットの発展型に関しては⑤をご参照ください。

③ノーマル・ドリブルショット

従来の空中キャッチからの1歩→2歩、ないしゼロステップを活かした0歩→1歩→2歩のドリブルショットです。①との違いにご注目ください。

例えば、左足ジャンプ&右手シュートであれば、1歩目=右足を着床する際にボールを両手で保持してセキュア動作をおこない、2歩目=左足で踏み切ります。スラムダンクで言う庶民シュートですが、セキュア動作が肝になります。

セキュア動作によってボールをバシッと保持することで、そこからボールを上に振ったり(ウィンドミル)・横に振り出したり(ユーロ/ジノビリ)・パスフェイクを入れたりもスムースにできるようになります。1歩目でジャンプ(ワンステップ・ショット)をする場合でも取っ散らかりにくいです。

実戦的には、ゼロ歩時の(最後の)ドリブルを強めに突いて跳ね上がってくるボールを早めにギャザーして、1歩目の着床に向けてしっかりセキュア動作&ボール操作を入れられるようにする方が、更に着実なコントロールができますし鋭いプレーが可能になります。

④ロールショット

0歩→1歩→2歩までを使ってフィニッシュする方が従来に比べて格段に容易で、トラベリングも吹かれにくいスキルです。感覚的なギャップも小さいのが利点です。

ロールショットは従来、ロール動作の最中に空中でボールをキャッチする必要がありましたが、ゼロステップルールの下では例えば右手ドリブルから左足でストップ(0歩目)しつつボールを右手に収め始め、次にロールに入ってまず右足を着床(1歩目)しつつボールを両手で保持、そして左足で踏み切って(2歩目)シュートするという手順になります。

⑤利き手側のドリブル・プルアップショット

ドリブル・プルアップショットはゼロステップをフル活用すると、実質4歩分の移動が可能になります。言葉で書くほど難しくはないですし、利き手と反対側の足を軸足に出来るので打ちやすいです。

右手ドリブルからであれば、左足の着床時にまだボールを手の中で遊ばせておき、右足をゼロ歩目にしつつボールを右手に収め始めるだけにして、次の左足を1歩目(=軸足)にしつつ両手でボールを保持、続く右足の着床と同時に両足ジャンプショットに移行します。

⑥ギャロップステップ、ステップバック・ショットなど

ゼロステップを応用すればギャロップ・ステップやステップバック・ショットは相当エグい技を編み出せそうです。私の場合、もちろん興味はありますが、その前に教えてあげたいことが山ほどあるので棚上げにしています。

ギャロップ・ステップは「0歩目と1歩目が同じ足だとトラベリング」という新項目がネックになるのと、0歩目片足→体をひねりつつジャンプ→1歩目両足というギャロップ動作の足(特に膝)への負担がどうしても気になってしまいます...

ステップバック・ショットはジェームズハーデン選手の凄技がよく話題になりますが、本当にここまでやっちゃうの??という抵抗感は否めないですし、シュート確率への影響も気になるところです。普通のステップバックで十分かなと思っています。

以上

2020/6/29

ドリブル vs. パス

どちらが優先?

ドリブル重視の指導に対してよくある批判は「ドリブルよりもパスの方が速い、なるべくパスを使うべき」というものです。

でも本当にそうですか?

NBAもB.LEAGUEもWJBLも、ガードがドリブルで運んだりゲームメイクしたりがほとんどです。その上で、味方がフリーになったらビュンとパスを飛ばしたり、相手の意表をついたノールック・パスを通したりしている。


この問いに対する答えは、35年前にひもといた笠原成元先生の指導書の中にすでにありました。すごく衝撃を受けたのを今でも覚えています。

「縦パスはドリブルよりも速いが、横パスよりもドリブルの方が速い」

笠原先生は当時としては珍しくドリブルの有用性・重要性を強調され、ユニークなバスケットボールを展開されていました。小野秀二さんを始め、東京教育大〜筑波大の歴代のポイントガードの個性豊かなプレーが思い出されます。


「ドリブルばっかでボールを持ちすぎ!」「そんな狭いところに突っ込んじゃって...」「前を見ろ、味方がフリーだぞ!」

今の時代はドリブル偏重に近いですが、ドリブラーに対するこんな非難もよく聞くようになりました。

私なら「(ドリブル中に)どこを見ようとしてる?」「(ドリブル開始前に)だれがどのスペースを使える?」「味方がフリーだったのにパスしなかった理由は何だったの?」と声がけする場面です。

そして、この種の批判的な目に対して私が思うのは、それってドリブル自体が悪いのではなくて、ドリブルの使い方や状況判断が下手な点が問題なのでは?ということです。


指導者として、ドリブル・ハンドリングやフットワーク/ハンドワークだけでなく、始め方と終わり方の原則、スペーシングと合わせを含む状況判断、ディフェンスとの駆け引きの原理を身につけさせているか?

ドリブル・チェンジや色々なフェイクを一通り理解した後は、SDDL方式などで使い方・使い分け方を子供達自らが気づき、見出していかねばなりません。

状況判断や駆け引きはコンセプトではなく個々のフィーリングが大きく関わるものだからです。この辺のことに関しては、昨日投稿した「1対1のキーワード」もご参照ください。


更に、指導者の仕事として、多様化し続けるドリブル・スキルを体系的に把握して、子供達が知り・理解できるように整理された形で提示してあげる必要があります。

しかし、最近のスキル動画や指導書・DVDを見ると、スキルを適当に分類して並べ立てただけのものが多いように思います。コーチングが分類学に陥ってしまい、選手達はスキルの種類の多さに混乱してしまっている...

先日も書いたように、後藤祥太コーチはスキルセットを「パッケージ」にした上で、チームや選手の特性・ニーズに合わせて提供されているように思います。私はツーステップ系とかポケット系に「シリーズ化」して練習させますが、目的は同じです。


結局、指導者は分類学者ではなく、人類学者でなければならないんですね! (今回はこれが言いたかっただけだったりする)

以上

2020/5/29

1対1のキーワード

これを意識すれば必ず勝てる!

1対1を楽しめる選手になってほしいということを前回書きましたが、ではどうやれば1対1を楽しめる=勝てるようになるのでしょうか?

能力で相手を圧倒できるのなら、例えばサイズやスピードで大きく優るなら工夫もなく勝てますが、平均的な子であっても駆け引き/スキルで勝てるし、それを教えるのが指導者の仕事です。

結論から言うと、私が重視しているのは以下の5つです:
 ①ディフェンスを動かす
 ②ディフェンスが答えを教えてくれる
 ③後出しジャンケン
 ④急急でも緩緩でもなく緩急
 ⑤攻め気が全てを解決する


①ディフェンスの両足のスタンスの内側で動いても「お釈迦様の手の上の悟空」なわけで、ディフェンスは反応しません (というか私はそのように教えます)。

なので、スタンスの外に向かってボールや自分の体を投げ出す形でフェイクして、ディフェンスを動かそうとするわけですが、その際にはゴールとアングルの選択と、レーン・チェンジによる切り返しが重要になります。

全てのプレーにフェイクがあるというのは鷲野先生の言葉ですが、普段からどんな場面でもディフィエンスの存在を想定し、だまして動かすマヌーバーを付加する習慣をつけるべきです。また、2拍子のフェイクはみえみえな一方、3拍子のフェイクは非常に有効です。


②1対1をオフボール状態から始めるとして、ボールサイドカットのコースが空いていたらどうするか、バンプされたらどうするか?あるいはパスを受けた瞬間にインラインが空いていたらどうするか、コースを押さえられたらどうするか?

更には、ドライブに並走されたら/先回りされたら/後追いしてきたら/カバーが来たら、それぞれどうするか?色々なスペースとポジションの取り合いのパターンに応じて、最適なプレーを選択できるための解釈法=1対1のセオリーを選手達に備えさせねばなりません。

ただし、ディフェンスの裏をかく、それに対応されそうになり裏の裏をかく、といったことを続けていては、自分がそもそもやりたいことからどんどん離れていってしまいます。どこかの時点で、ディフェンスがくれる答えではなく自分なりの答えにこだわり、決め打ち的にプレーする必要はあります。


③ディフェンスの反応を見たりディフェンスが教えれくれる答えを知るには、ディフェンスをウォッチすることが必要で、そのための時間を作らねばなりません。

例えばドリブル・ドライブ時のスキルとして、ポケットはボールを引いて時間を作りつつ前に投げ出す準備をする動作ですし、フロートはツーステップやスキップによって時間を作ると同時に横ズレを生じさせる動作ととらえることができます。

更にスキルを深化させるには、このディフェンス・ウォッチのための時間を、オフェンス・マヌーバーのための時間としても使うのが有効です。例えば、ポケットにシミー動作を加えたり、スキップにジャブ動作を加えたりする。指導者の腕の見せ所です!


④急急はスピード任せで、自分よりも速い相手には勝てない。緩緩では相手にみえみえでいつまでも振り切れない。1.0がノーマル・スピードだとして、それを0.5に詰めるのはスピード競争であり能力勝負の世界です。

逆に、1.1、1.5、1.9を使えないだろうか?1.0→0.5の変化幅は0.5、1.0→1.1の変化幅は0.1であり、後者の方が実は速いのではないか?更に0.5の速い動きを2つ組み合わせれば1.0になり、無駄かつ凡庸な動きになってしまうのではないか?

1.0→2.0→3.0に対して1.5→2.5→3.5と裏拍を取っても、変化の幅自体はともに1.0であり、ズラす効果は小さいのではないか?小数を超えて無理数ではどうか?ボールを対角線に最短距離で動かせばルート2、大きく斜めに動かせばルート5、丸く動かせばπになります。

このように整数でふつうは把握するリズムを小数点に置き換えてみることで、より繊細なムーブが生み出せるのではないかと私は考えています。


⑤ボールマンであれオフボールマンであれ、ディフェンスを破りチャンスとなるスポットに動いて得点するという意図とスキルを持っていなければ、個人でもチームとしても有効なプレーは創れません。

上の②とも関係しますが、オフェンスに攻め気=脅威があればこそ、ディフェンスは正しい答えを教えてくれます。個人のムーブのみならず、チームとしての連携プレーの中でも、個々が攻め気を示すことで最適解が見えてきます。

例えば、側線速攻に対してディフェンスが対応し始めると、縦パスが通りにくくなりますが、その際は「ミドルドライブできる!」「ミドルレーンに走り込めばパスをもらえる!」というように、次の攻めをイメージできねばなりません。

そして、ミドルレーンをそのように攻められるようになれば、ディフェンスは今度は縦パスを妨害できなくなります。結局、1対1の攻め気とスキルがあってこそ、スペーシングや合わせといったチームのセオリーが機能するのであり、シ・ド・パすべてにおいてタイミングがシンクロするわけです。


今回は一気に難しい議論のオンパレードになりました。

詳しい実践法を説明するには紙面がいくらあっても足りないので、私達の指導現場をみていただければと思います。

以上

2020/5/28